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「先生?」
名古屋に帰ってもどうにも事件のことが頭を離れない名取。
助手の本村健太郎が心配そうに声をかける。
「あの打撲痕、どうしてできたのかしらね?」
「打撲痕、ですか?」
「被害者のさくらさんの頭部にあった打撲痕よ。殴られたというより、突かれたような感じだったでしょ。何でできたのかしら?それに、あの気管に詰まってた鼻血・・・」
「鼻血?」
「そうよ。他に傷はなかったもの。あれは大量の鼻血が気管に流れ込んで窒息したのよ。だけど、顔はきれいだったでしょ?それが不思議なのよねぇ」
・・・なんと、さくらの死因は鼻血だと言う。
「とにかく、あの打撲痕と鼻血の原因を調べなきゃ!本村君、やるわよ!」
「それは・・・ひょっとして・・・」
「そうよ!君が実験台!さ、ぐずぐずしてないでさっさと始めましょう!」
こうして本村はいつもの通り、名取の実験台になるのだった・・・
「このたびはご愁傷様です」
喪服に身を包んだ川村ゆきえがさくらの両親に頭を下げる。
「川村さん、こちらこそ、さくらが大変お世話になって・・・さくらを見つけてくださってありがとうございました」
「そんな、頭を上げてください。私がもっと早く先輩を訪ねていればこんなことにはならなかったかもしれないのに・・・」
「いいえ。この暑い名古屋で、亡くなってすぐに見つけていただいただけで・・・あの子も暑かったでしょう・・・」
目元にハンカチを当てるさくらの両親。
ひとしきり話をした後、ゆきえが二人のもとを離れた。
「川村さん」
呼ばれて振り向くと、そこには名取が立っていた。
「こんにちは。私、さくらさんの解剖を担当した監察医の名取です。このたびは大変だったわね」
「いえ・・・」
「少し、お話してもいいかしら?」
「はい・・・?」
怪訝そうなゆきえ。
しかし、名取は解する風もない。
「あなた、さくらさんのお宅にお邪魔したのは何時?」
「え?警察にはお話しましたけれど、15:00頃です」
「それ、間違いない?」
「えぇ」
「それじゃ、その1時間前くらいに彼女の部屋で掃除機をかけたのは誰なのかしら?」
「え?掃除機?」
「そうよ。彼女の部屋の下に住む学生さんが掃除機の音を聞いてるの。彼、彼女が滅多に掃除をしないこと、知ってたわ。それから、あなたが時々掃除をしに来ていたこともね」
「それは・・・さくら先輩じゃないですか?私がいなくても掃除機をかけることくらいあるでしょう?」
「あなたが来ると分かっていて?」
言葉に詰まるゆきえ。
「それにね、あの掃除機からは誰の指紋も出なかったのよ」
「指紋がないなら、私じゃないってことですよね?」
「あなたの指紋がないなら、ね。でも、あの掃除機からは誰の指紋も出なかったの」
ゆきえには名取の言っている意味が分からない。
その様を見て取った名取が微笑む。
「少し話を変えましょう。さくらさんの後頭部に打撲痕があったのはご存知?」
「えぇ、刑事さんから聞きました」
「その打撲痕、上から殴ったというより、何かで突いたような痕なの」
「???」
「さくらさん、掃除をしない割には輸入物の大きな掃除機を持っているのね。かなり音が大きいけど、吸引力がすごいってやつ。どこもかしこも丈夫にできててかなり重いのね。キャスターがしっかりしてるから普通に掃除する分には構わないけど。でも、輸入物だから私みたいな日本人体系には柄も長すぎるわ」
はっとするゆきえ。
「あの掃除機の柄とさくらさんの打撲痕が一致したわ」
名取の言葉に震えだすゆきえ。
「まさか、死んじゃうなんて思わなかったんです・・・」
みるみるうちにゆきえの大きな瞳に涙が溜まっていく。
あの日。
昼過ぎにさくらの家を訪ねたゆきえは、いつものように部屋の片付けと掃除を頼まれた。
休みで、いい加減散らかった部屋をゆきえが片付け、掃除機をかけ始めると、さくらはDVDを見出したのだと言う。
「うるさいからって、ヘッドフォンをしてたんです、先輩」
ゆきえはさくらの座っているソファに背を向けて掃除機をかけていた。
フローリングの上に敷かれた薄いラグを掃除機が吸い込み、勢いよく柄を持ち上げたのと、さくらが画面に映った高橋和興の姿にのけぞったのは、ほぼ同時だった。
運悪く、掃除機の柄はさくらの後頭部に命中してしまったのだ。
「先輩!大丈夫ですか!?」
慌ててさくらの無事を確かめるゆきえ。
しかし、その時、さくらはまだ生きていた。
「だ、大丈夫、大丈夫。驚かしてごめんね。和興がかっこよすぎてさぁ、ほら、鼻血まで出ちゃった!この鼻血で記念サインでもしちゃおうかな」
涙目になりながらも、笑っていたのだと言う。
ただ、さくらの言うとおり、大量の鼻血が出ていた。
だから、ゆきえはティッシュボックスを抱えたさくらをおいて、氷を買いに出かけたのだ。
ところが・・・
その鼻血は治まることなく、上を向いていた時に、どういう加減か気管に入り込み、気道をふさいでしまったようだった。
ゆきえが戻ってきた時には、さくらは既に息をしていなかったのだと言う。
「あの時、氷なんか買いに行かずに、先輩のそばにいたら・・・あんなに血が出ていたんだから、病院に連れて行けばよかった・・・」
自分が掃除機の柄をぶつけたせいで死んでしまったのかもしれないと思い込んだゆきえは、そのことを言い出せなかったのだと、話した。
救急車を呼んだゆきえは、大量の鼻血で汚れているさくらの顔をタオルで拭いて、救急車の到着を待った。
「汚れた顔を他人に見せたくないだろうと思ったんです・・・」
名取はゆきえの話を聞いて、警察に一緒に行こう、と促した。
名取の言葉にゆきえは肯き、二人は警察へと向かうのだった・・・
事件の顛末を話すために和興に会う名取。
「そうですか・・・さくらさんは僕のDVDを見て・・・」
名取の話に、さくらの死に少なからず自分が関わっていたことを知り、和興は暗い表情になる。
「それでね、ゆきえさんが出て行って一人になったときに、あなたの名前を書いたんじゃないかって話だったわ。彼女、本当にあなたのこと好きだったのね」
「いつも、大げさなくらいの愛情表現でした」
元気なさくらを思い出し、口元だけで微笑む和興。
「彼女の、さくらさんの後輩の方はその後?」
「ゆきえさんが掃除機の柄をぶつけたことが直接の死因ではないし、彼女が出て行ったのは治療のための氷を買うためだったわけだし。適切な行動ではないけれど、彼女なりにさくらさんのためを思って行動したのと、さくらさんの親御さんも訴えないと言うことで、厳重注意ですんだわ」
「そうですか。よかった。さくらさんもそのほうが安心するでしょう」
「やさしいのね」
名取は和興の言葉に少しだけさくらに嫉妬する。
「僕にとってさくらさんは、大切なファンの一人ですから。ファンが大切にしている人やものを僕も大切にできればいいと思っているだけですよ」
「私も、大切に思ってもらえるのかしら」
ある種の期待をこめて訊く名取に和興は満面の笑顔で答えた。
「もちろん!また、Glassesにも来てください!・・・と、そろそろ稽古なんで失礼します。よかったら舞台も見に来てくださいね!」
さわやかな笑顔を残して、大きく手を振りながらその場を後にする和興。
つられて手を振りながらも、「そういう意味じゃないんだけど・・・」とファン以上の扱いを期待した名取は半泣きの笑顔で和興を見送るのだった。
(おわり)
ゆきえさん、かわいそう・・・
基本的に、さくらさん、普段から鼻血出しすぎなんですよね(笑)
そして、ゆきえさんは巻き込まれたと!
かずおきさんも、巻き込まれたんですよね。全然、犯人と関係なかったですもんね。
亡くなる前のさくらさんは何を見ていたんでしょう?18禁ですか?
執事喫茶も、メガネをかけた和興さんとは、たまりません!メガネフェチの私にとっても鼻血もんです。
これ、色々な設定でシリーズ化なんてどうですか?
名取裕子が「名取裕子」~っていう感じで、さくらさんの表現力に☆3つデス。
監察医シリーズはついつい、観てしまいます。
執事喫茶、わたしも通いたいです!!!
そして、高橋さんがアイロン掛けをした、ぱりっとした新聞を一番に読みたいです!(?なんか違う???)
暑い日が続きますが、お仕事(&更新)ガンバってください。楽しみにしてます。
それでは、お返事を・・・
ペンギンさん>
えぇ、ゆきえさんには悪いなぁ、と思いながら書いてました。
でも、美人が困ってるのってちょっと好きなんです<S(自爆)
18禁でなくても、しばらくぶりに高橋さんを見ればこうなります!
あひるさん>
悲しすぎますか?人を殺したり犯人にしたり・・・ってできなかったので、自分ではギャグっぽくしたつもりだったんですが。
高橋さんのために書いたようなものですから、出番は増やします!
シリーズ化・・・できるんでしょうか・・・?<訊くなよっ
月野夜さん>
お褒めの言葉、ありがとうございます!
名取さんはイメージ確立してますよね。
一番書きやすかったです(笑)
高橋さんの執事喫茶、みなさん、妄想が広がりますね。やっぱり、求めるものはみんな一緒!??